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HaruP Works

シンセサイザーやボーカロイドで制作したオリジナル音楽をこっそり紹介

 

シンセの神様・冨田勲の機材(TOMITA Memorial Museum)レポ2 

レポ1からちょっと間が空いてしまいましたが、世界的なシンセサイザー・アーティストである故・冨田勲さんの往年の機材を展示したTOMITA Memorial Museumについての続きです。

※文中に出ている写真は特設ステージに並べられた冨田さんの往年の機材で、松武さんとは冨田さんに師事したことのある日本シンセサイザープログラマー協会の会長の松武秀樹さんのことです。トークショーでの説明を要所で参考にしております。

●繋ぐ[結線]することで音を創る

冨田勲が創りだしたシンセサウンドの特徴は、トミタ・サウンドと言われるオリジナリティ溢れる音に特徴があります。

現在のシンセは、最初から凄い数のプリセットサウンドが入っており、音作りをしなくとも買ったその日から音を出して楽しめます。

ところが、冨田さんが写真1にあるようなmoogシステムシンセサイザーを日本での個人で初めて輸入した時代は、音を出すことすら一苦労。
もうこの逸話だけで、ブログが何本も書けてしまうので、それは別に紹介するとして、簡単に言ってしまえば、音を創りだす全ての装置が音の構成要素を合成するための機能で独立しており、それらをケーブルで結線しなければ一音すら音は全く出すことが出来ません。

写真1:在りし日の冨田さんと後ろのシンセが愛機Moog ModularIIIp(タワーレコードの広告より) 

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当然ながらメチャクチャに線をつないでも音が出ませんので、各装置の機能を理解しながら結線していかなければ音を創ることができません。

まさにゼロから音を合成する機械=シンセサイザーの名前のとおりの楽器で、ひとつの音色を作るために何本ものケーブルで結線し装置のつまみを調整しながら、微妙な音の変化の実験を繰り返すことで音を作る積み重ねだったのです。

故に、冨田さんはシンセサイザーによる音作りは、絵を描くときの絵具とパレットの関係という例えをよくされていました。
例えるなら同じ赤色であっても自分がイメージする赤色をつくるため様々な絵具の色を混ぜ合わせ(音色合成)、そして筆でキャンバスに何度も塗り重ねる(多重録音)作業とよく似ているとのことです。

冨田さんは、シンセサイザーでゼロから楽器や効果音などの音色を作りながら、壮大で多彩な音楽作品を創造してきたのです。


●トミタ・サウンドの真骨頂「ストリングス」


冨田さんが創りだしたサウンドの多くは、30年以上前の昔のシンセで作られたとはいえ本当に創造性に溢れ、しかも現在の最新鋭のシンセでも真似が出来ない音色も多数あります。

そのひとつが、ストリングス(オーケストラの弦楽器部)の音色です。

例として、次の作品を聴いてみてください。
Amazonのデジタルミュージックの視聴ページです。

金星(冨田勲)
ホラ・スタッカート(冨田勲)
(各ページのサンプル試聴のボタンで30秒ほど聴けます)
※Amazonデジタルミュージックキャプチャー画面

listening Tomita at amazon

非常に短い視聴用のサンプルではありますが、これらの曲で聴こえるストリングス・サウンドの質感は本物ではないけど実に華やかで生々しい色彩をもった音色ではないでしょうか。
冨田さんの作品は、ストリングスのサウンドが本当に素晴らしく、繊細な音から大編成の壮大なものから実に多彩な音色を他にも聴くことができます。

現在では、本物のオーケストラの音をデジタル録音(サンプリング)したものを加工したものをシンセで鳴らすことが当然となりましたが、当時はそんな便利なものはなく、先にご紹介したシンセの各装置を結線をして純粋に電気的な合成によってのみで音を創っていたのです。

それでは、各装置の結線と調整で試聴していただいたストリングスの演奏表現ができるかというと実際はかなり難しいです。というか再現は不可能です。確かに写真2のような巨大でツマミが多数ついた機械なので何でも出来そうですが、音楽的な表現を再現するには、シンセサイザーを応用しながら多層的で様々な複雑なプロセスがさらに必要なのです。

写真2:堂々たる威容を誇るMoogの代表的システム・シンセサイザー[System 55]

Tomita Mus moog

冨田さんはどうやって大編成の弦楽器の再現を行ったいたかというと、一つのパートの同じフレーズを何度も何度も、多重録音が可能なマルチトラック・テープレコーダーに重ねて録音をしました。

当時利用されていたマルチトラック・テープレコーダーがくるくる回りながら動いている様子を当時のCMで観られる貴重な映像です。BGMは全て冨田さんの作品で、純粋に電子音の合成だけで作り上げられたものです。



特設ステージで語られていた松武さんによると、ひとつのストリングスのフレーズ当たりで、冨田さんは少なくとも百回は重ねられていたとのこと!
そして冨田さんならではの方法として、それだけの音を重ねるなかで敢えてちょっと下手な演奏者の音が混じる要素を入れることで演奏にライブ感が出てくるそうで、試行錯誤で多重録音による音色合成のテクニックを開発されていかれたようです。

冨田さんにしか創れないサウンドは、このような気の遠くなるような作業があってとのことだと改めて実感しました。

さすがにテープレコーダーに重ねる作業は大変手間がかかるため、時代が進むにつれ重ねる分の音の基本となる発振器(敢えて例えるのなら弦1本分)を増やすことで代用し、トミタ・ストリングスを再現しようとした試みが、写真3のSYSTEM-100Mという小型のシステム・シンセサイザーを使った事例です。

写真3:SYSTEM-100Mの3ラック分。この写真の手前の2台のラックは、全て発振器で10基分入っており、1基あたり2つに回路が独立していますので、この写真のラックだけで何と20個もの発振器がセットされている状態です!

SYSTEM-100M at TOMITA Memorial Museum

このシステム・シンセサイザーは、必要な装置を自由にセレクトしてマウント(1台のラックに5個収納)することで、自分専用のシステムをカスタマイズしながら組み上げることができますが、冨田さんは、なんとこれに発振器だけを何十個も組み入れて構成されたとのこと!
つまり、同時に鳴らせる発振器の数を増やすことで、その分多重録音で音を重ねる手間を少しでも省くことができるよう工夫されていたのです。

写真4:ちなみに、わがプライベートスタジオに鎮座しているSYSTEM-100M(10モジュール)このシステムはモノフォニックの基本シンセサイザー1台分を4基分搭載した状態のセットです。

System-100M.jpg

松武さんによると、このようないわば力技?ともいえる物量作戦を立てることで、多重録音の回数が減ったとはいえ好みのストリングスサウンドに調整するのには、数十個分の発振器のパラメーターを全て調整しなければならないので、これまた大変だったようです。ちなみに、そのあとの音色及び音量変化の調整は、やはりトミタ・サウンドの要であるmoogシンセで処理されていたようです。


●不自由の自由から生み出されるオリジナリティ

シンセサイザーの先駆者である冨田さんだからこそ、このように制作秘話にちょっとだけ触れただけでも、作品制作において大変な生みの苦しみがあったことが分かります。
松武さんによると、1日かけても、数小節やワンフレーズだけというようなことが多く、おそらく冨田さんのサウンドの95%は失敗(あくまでも冨田さんのなかで)で、残りの5%くらいが世に出たものとおっしゃておられました。

確かに現在は、技術の進歩によりシンセサイザーから音がすぐに出ることは当たり前で、あらゆるサウンドやリアルなサウンドがすぐに出せる便利な楽器となりました。
それは、とても良いことで、音楽制作がとても簡単に始められることにもつながり、一人でも大編成のオーケストラや様々なジャンルの音楽を作ることが出来るという一昔前なら夢のようなことが出来る時代になりました。そのプロセスを、シンセサイザーがまだ珍しい黎明期においてパイオニアとして全て一人で実現していたのが、まさに冨田さんなのです。

ところが、私の音楽制作を振り返ってみるに、冨田さんがやろうとした「自分がイメージしている音だからこそ自分が創る」というような、本来のシンセサイザーの一番の可能性を引き出すようなワークスを今の私はあまり出来ていないなぁとふと反省してしまいます。

冨田さんがシンセを触り始めた頃は以下のような、あらゆるハードウエアや環境上の制約がありました。

・マニュアルがない(あっても各装置の仕様書)
・先駆者ゆえに教えてくれるひとがいない(当然、WEBもないので、今みたいに検索で必要なノウハウもアップされていない)
・音色のひな型(プリセット)がない
・音色を記憶できない(作った音色をメモリーできるシンセは当時は希少)
・作った音が変化する(温度、湿度、電圧の変動に非常に敏感で不安定な動作)
・録音機材がとても高価(今でこそパソコンで何百トラックも録音できますが、当時だと24トラックでも車数台分)
・自動演奏がまだ数十ステップ程度(現在ではほぼ無制限ですが)
 etc・・・

というような風に、現在、自宅で普通のパソコンさえあればできることが、当時の冨田さんの環境では制限だらけという状況なのです。なのに、冨田さんの作品のサウンドは、現在の最先端の機材を使っても出せない音がある。

知恵と工夫と構想力、そして何よりも冨田さんの創造性がそれらの制約のなかでもオリジナリティを自由に織り成すことで世界的な作品を生み出してきたのです。

音楽制作において、現在では何でも揃ってしまいますが、その自由さに溺れてしまうことがないように、あらためて自分が何を創りたいのか、またそのうえで作品を創る原点を大切にしようと、冨田さんの伝説の機材に触れて思いを新たにしました。

それでは、また続きは後日にて。

<参考リンク>
●シンセサイザーの大家「冨田勲」御大への追悼文
●世界的シンセサイザー奏者の冨田勲氏が死去
●シンセサイザー界の巨匠「冨田勲」師考
●シンセ界の巨匠「冨田勲」と初音ミクとの世界初演!!!
●冨田勲と初音ミク~時空を超えたアーティストの饗宴~
●シンセ界の巨匠「冨田勲」と「初音ミク」のコラボ実現の秘密とは!
●初音ミクがアーティストとして登場!?YahooのPR広告企画が面白そう
 
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Category: シンセサイザー

Thread: DTM、宅録、ミックス、レコーディング、機材

Janre: 音楽

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コメント

いやぁ、深い記事、面白いです、未だに冨田さんの音が出せるシンセはありませんねぇ。
にしても住友金属の CF 出演は知りませんでした、感心します、シンクラIIあたりで打ち込みされてますね。

nemo #FwR4mFsA | URL | 2016/12/16 19:23 [edit]

nemoさん

そうなんですよねぇ~

これだけ技術が進化しても、冨田さんの音が出るシンセが無いんです。

そう考えると、いかに冨田さんのオリジナリティ、創作の凄さが再認識できます。

住友金属のcm、たまたまYouTubeにアップされていて、当時の最先端の技術の雰囲気が溢れていて、イイですよね。

HaruP #9yJV7Jf. | URL | 2016/12/21 02:59 [edit]

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